伝統と静寂の美学:山井さゆみが拓く能楽の新たな地平と舞台芸術の真価
A detailed look at 伝統と静寂の美学:山井さゆみが拓く能楽の新たな地平と舞台芸術の真価, covering expert perspectives.
能の演目は、神々を称える神能(脇能)、修羅道に落ちた武士を描く修羅能、美しい女性や霊が主人公となる髪物(女もの)など、多岐にわたる。山井さゆみは、幅広い演目で卓越した役作りを見せてきた。
例えば『葵上(あおいのうえ)』における六条御息所の怨霊役。生霊となった貴婦人の高貴さと、嫉妬に狂う凄絶な情念の対比を、山井は繊細な型と感情の起伏で演じ分ける。能面「般若」をかける前段階、面をつけない「直面(ひたたれ)」の段階から、すでに狂気が立ち込めるような静かな凄みが漂う。
一方、『羽衣(はごろも)』のような天女の舞では、この世のものとは思えぬ軽やかさと神聖さを醸し出す。同じ肉体、同じ舞台でありながら、演目によってまったく異なる気配を纏う変幻自在さこそ、山井さゆみの真骨頂と言える。